unofficial era name

「私年号」の呼称と分類

[2] 私年号異年号に類する用語は様々なものがあります。

呼称のいろいろ

[68] 私年号と同義または類義の用語に異年号逸年号偽年号僭年号私製年號仏年号古代年号九州年号地域年号といったものがありました。

[1] これらの用語は中世以来続く日本の私年号の研究の中で、 ときに主観的、思想的、政治的な判断とともに、 ときに古代年号日本中世の私年号を一緒くたにし、 ときに制定・利用者について特定の学説と結び付いて使われてきました。 それぞれの語によって表される範囲にもばらつきがありました。

[808] 例えば偽年号僭年号という表現は、 正統でない不適切なものという含意をこめて使われることがありました。

[809] 逆に、研究者が含むところなく私年号という語を使っていても、 “政府や学界に認められていない元号だけど隠された真実の歴史は云々”といった陰謀論に染まり、 “「私」年号と過小評価されている”と怒っている人は現代でもいたりします。

[805] また、明確な用語を与えられることなく曖昧に指し示されることもよくありました。

[921] こうした用語の混乱は、 当該元号の性質がよくわかっていなかった (今でも十分よくわかっているとはいえない) こと、 様々な来歴や使われ方の雑多な元号群の括りであることに起因します。

[807] 近代の研究者は異年号という語をよく使いました。また、私年号という語もよく使いました。 しかしそれらの定義や分類は必ずしも明確ではなく、 近世以来の他の様々な用語と共に使われていました。

[65] 昭和時代日本の私年号研究を大成した 日本私年号の研究 は、 公年号に対して各種の異年号 (私年号古代年号など) があると整理しました。 日本の私年号 以後学術的には私年号の語が定着しました >>93, >>96, >>60。 ただ一般の解説などは私年号を中心としつつも依然として他の用語を並列に示したり、 不明瞭な定義にとどまっていたりします。

[95] 例えば公年号のバリエーションである白鳳私年号の代表例に挙げるものがあります。 日本私年号の研究 の定義では誤りとなります。 白鳳

[227] 公年号たる神亀の誤記といわれる白亀私年号に分類されることがありますが、 適切とは思えません。 日本私年号の研究 の定義では誤りとなります。 白亀

[806] 日本私年号の研究 以来この種の元号の様々な呼称の内「私年号」 の圧倒的な優位性は動かぬものとはなったとはいえ、 日本私年号の研究 の提唱した異年号私年号等の定義と分類は一部でしか採用されませんでした。 その後の研究状況の変化により、今ではそのまま採用できなくなっているのも事実ですが、 かといって新たな定義や分類・整理の方法が提唱されているわけでもありません。

[226] 私年号研究史も参照。


[157] 江戸時代中頃以前において、 公年号と異なる元号を一括して表現したものはありませんでした。 >>156

[158] 江戸時代塩尻は、 皇年代記 にある古代年号を記載しつつ、 単に「いぶかしき事」 としたに留まり、 一括した名称を与えていません。 >>156

[159] 和爾雅, 貝原益軒は、 はじめて日本偽年号の呼称を用いました。 古代年号が後世の偽作と考え、 この名称を用いたと思われます。 >>156

[160] 万葉緯 ( - ) は、 >>159 を転記し、 古代之年号, 往古年号と呼びました。 古代年号を偽作と断定することを避けたからと推測されます。 百瀬川, 大田南畝往古年号と呼んでいます。 >>156

[161] 和漢年契 は、日本漢土を比較したもので、 「我邦無僭偽」 であるとしています。そして、 公年号と区別して古代年号も掲載していますが、 その総称は設けていません。 >>156


[171] 文化年間頃には、 逸号往古年号異年号などと呼ばれました。 >>156

[162] - の 逸号年表, 藤貞幹は、 古代年号を掲載し、逸号と呼んでいます。 これは正史に逸した年号と考えてのこととみられます。 >>156

[163] 異年号考, 穂積保は、 中世私年号などを掲載し、 異年号と呼んでいます。公年号とは異なるとの意味で使用されています。 >>156

[244] - に刊行された 紀伊国名所図会 は、 天靖大道後南朝の元号と考え、 「私に建てたる號」 という言葉で説明しました。 >>243

[164] 紀元通略, 羽倉簡堂は、 古代年号を掲載し、 古代年号と呼んでいます。 >>156

[165] 襲国偽僭考 は、 既に九州年号なるものがあるとし、 往古年号九州年号たることを裏付けようとしました。 >>156

[166] 茅窓漫録は、 古代年号を 「和漢異年号」 「和邦異年号」 と呼んでいます。 公年号ではないと考えてのものと思われます。 >>156

[167] 偽年号考は、 中世私年号を、 僧侶がみだりに創作使用したと考え、 偽年号と呼んでいます。 >>156

[249] 偽年号考は、 福徳, 弥勒, 命禄の3種の偽年号を紹介していますが、 これらが伊豆相模より東にのみみられることから、 關東の僞年號と称するという、 と説明しています。 >>248

[168] 異号年表, 色川三中は、 異号と呼んでいます。 中世私年号が注意されるようになったため、 古代年号との総称に異年号が適当と見たためであろうと考えられます。 >>156

[252] 伴信友逸号年表古代年号中世私年号などを加筆した逸号年表補考は、 文中で異年号と呼んでおり、異年号考を踏襲したと推測されています。 >>156

[228] 本書は天靖私号か、としています。 >>156

[1926] 伴信友は、自身の年号の論では 「妖僞言 (オヨヅレゴト) せる年號」、 「妖僞年號」 といった表現を使いました >>1731

[15] 伴信友白鳳大長などは実在の公年号とし、 法興もその類として扱い、 古代年号( 以上日本古代の日時 ) 4文字元号の省略形や南朝後南朝元号を挙げてから、 それ以外にも妖僞年號がある、と挙げていました。 具体的には日本私年号一覧表 妖僞年號に含まれるものは日本の中世私年号改元デマの類でした。 説明の量と順序の都合上古代年号が含まれていません。 伴信友の評価によればそれらも含めて良さそうなものですが、 真意は不明です。

[1368] 江戸時代の研究者飯田忠彦 (-)後南朝史書 野史 (成立, 漢文) は、 天靖について「私建元曰天靖元年」と書いています。 >>1369

[169] 明治時代靖方溯源 は、 古代年号異年号と呼んでいます。 >>156

[170] 明治時代逸年号考 は、 古代年号中世私年号逸年号と総称し、 文中では「異しき年号」「異年号」と説明しています。 >>156

[784] 明治時代吉田東伍は、 大道のことを 「私称濫用」 と評しました。 大道

[48] 澤柳大五郎は、 論文の表で 「(私)年號」 の銘文として法興法興元寳元永昌を挙げました。 本文で 「私(疑)年號或は外國年號」 であって公年號でないものとしました。 >>1939 「外国年号」とは唐の元号たる永昌を指します。 残る3例を私年号または疑年号と呼んだのでしょう。 この論文の文脈上、 日本政府の制定したものを公年号と呼んで、 唐の元号はそれに含めなかったものと思われます。 表では簡略して私年号に括ったものと思われます。

[245] 後に私年号研究の権威となる久保常晴は、 昭和7年の最初期の論文で命禄私年號と呼んでいます。 >>568 その直後昭和9年の論文では、他の事例も含めて異年號を総称的に用いています。 >>1282

[247] また、昭和9年の論文は、紹介した異年号のうち、 関東中心に分布する福徳, 弥勒, 命禄は 「關東の私(異)年號」 と総称されている、と述べています。 (結果として永喜, 大道などが除外されています。)

[246] 昭和39年と昭和41年の久保常晴の論文は私年号を題名としつつ、 取り上げた事例が異年号私年号のどちらに当たるかを判別しています。 その区別の定義は明示されておらず、所与のように扱っています。 >>162, >>796

[172] 昭和42年の 日本私年号の研究 は、 近年もっぱら用いられるのが私年号との呼称である、 としています。 その上で、総称を異年号とし、その細分類を私年号, 古代年号などとする体系を定義しています。 >>156

[812] 昭和時代後期の国史大辞典の解説 (執筆者は千々和到) は、 私年号で立項し、 「偽年号・異年号・逸年号などともいう。」 としています。 >>811

[813] 国史大辞典によると私年号とは 「朝廷の定めたものでない年号」 のことであり、 その中には

も含まれていると考えられるとしています。 >>811 つまり、意図的に作られたか偶発的に生じたかは問わず、 同時代的に作られたか後の時代に遡って作られたかも問わない広い定義になっています。

[98] 歴史研究者の前川清一は、 私年号

... に大別しました。 >>223, >>60 前者は古代年号の類であって、後者は狭義の私年号に当たるものです。

[102] 更にこの2分類に

... を補い、それが時間経過により一に、 空間的伝播により二が生じたのではないかとする指摘もあります >>60。 ただこれは成立要因の分析であって、分類の1つとするには適さないかもしれません。 日本の中世私年号

[50] 前川清一熊本県私年号を検討し、関東私年号とも比較しつつ、 次のような見解を示しました。 熊本県でも私年号は混乱期に見られます。 そして私年号は「案外」、福祉元年のように共同体の中で人々の一致した願いを表現したもので、 征露のようにあまり抵抗もなく使用されたきらいがある、 としました。そして、私年号から教養ある人物の存在が窺われるとしました。 >>223

[288] 近代諸元号現象 は、 ごく一地域など国家でない限定された共同体内で流通した元号を私年号 (異年号, 偽年号) というとしています。 >>431

[8] そして発生の多くは3分類できるとしています (が出典は明示されていません)。 >>431

[103] 新版元号事典は、 私年号建元事由としてよくいわれるものの他に、 四「曽祖父が生きていた○年頃、祖父の時代の第○年目」という呼び方が固有化したもの、 を挙げました。 >>60 具体例は不明で、古い時代でこの類型に当たる事例があるのかわかりませんが、 近年では戦後命知などが該当するでしょうか。 元号の定義に関わる境界的現象といえます。 元号

[93] 平成時代日本元号研究の権威である所功らによって刊行された 日本年号史大事典は、 「異年号 (私年号・偽年号・逸年号)」 を民間で私的に作られた年号であると説明し、 日本私年号の研究以来「私年号」という呼称が一般的になったようだと述べています。 それ以後本文では「私年号」の語を使っています。 >>40 普及版 p.338

[94] ところが所功らのより新しい著書 元号―年号から読み解く日本史― は、 法興私年号と紹介する一方で、 「私的であれ該当時期にあったとは認め難い、 かなり後代に作られたとみられるもの」 を異年号偽年号といい、 一部で古代年号九州年号と呼ばれている >>83 p.53 と説明しています。 この間、異年号の分類の研究にこれといった進展はありません。 両者でなぜ異なる説明となったのか不明ですが、 いずれにしても未だに用語の定義が不安定であることがわかります。

[24] 平成31年の元号に関する論文で、 「中国内の正統王朝以外が非公式の独自年号、 すなわち「偽号」を用いることがあったが、 偽号、別の表現を用いれば「私年号」は 」 と書いているものがあります >>124

[26] 元号(げんごう)とは - コトバンク (ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,デジタル大辞泉,百科事典マイペディア,世界大百科事典 第2版,大辞林 第三版,日本大百科全書(ニッポニカ),精選版 日本国語大辞典,世界大百科事典内言及著, ) https://kotobank.jp/word/%E5%85%83%E5%8F%B7-60424#sekai_refs

【東国】より

元号については,頼朝のときの治承5,6,7年,幕府最末期の元徳3,4年など王朝の元号と異なる元号(異年号)が使用され,

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

[72] Japanese era name - Wikipedia () https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_era_name#Unofficial_era_name_system

偽年号

[146] https://toyo-bunko.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=5688&item_no=1&attribute_id=22&file_no=

偽元号

[150] Wikipedia:削除依頼/渤海史の偽史関係 - Wikipedia, , https://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E5%89%8A%E9%99%A4%E4%BE%9D%E9%A0%BC/%E6%B8%A4%E6%B5%B7%E5%8F%B2%E3%81%AE%E5%81%BD%E5%8F%B2%E9%96%A2%E4%BF%82

偽年号

誤年号

[71] 永平

他言語翻訳

[256] 日本語論文の英文題名では、

Graduation Theses and Reports A Study of "Shinengo" (Unofficial Name of an Era) in the 15th and the 16th Centuries

... となっています。 >>255

[257] 私年号ローマ字表記の Shinengo に、英語の説明 Unofficial Name of an Era が併記されています。

[258] この表記だと era の unofficial name つまり元号の非公式な名前、と読めます。 公年号の別名称ならこれでいいのでしょうが、公年号と異なる時期を表す一般の私年号だと unofficial を era に掛けるべきで、不適切に思われます。

[259] 「私」を unofficial と訳すことにも議論の余地があります。

[260] このような訳語は著者の言外の認識を表している可能性もあるものの、 掲載誌の方針のため投稿直前によく考えずに英訳しただけの可能性もありそうです。


[262] 平成時代日本の代表的な元号研究者の一人である Masaharu Mizukami は、 の英文記事で、

Era names which lack valid political backing are called unofficial era names, or shi-nengo in Japanese. In Japan, official era names have been used continuously without interruption from the Taiho Period (701-704) until the Heisei Period today.

... と説明しています。 >>261

[263] すなわち妥当な政治的後ろ盾のない元号名unofficial era name と呼ばれ、そうでないのが official era names である、としています。 正統的権力によって制定された公年号補集合私年号である、 という考え方と unofficial / official という修飾語がよく整合しています。


[271] 令和8年8月時点で各言語の Web ページで私年号関係用語がどう表現されているかを Prism (GPT) に調査させた結果は次の通り。

[272] 主要な非日本語資料では、同じ日本語概念でも「意味を訳す」「ローマ字・音写で残す」「両者を併記する」という三方式があります。

日本語 英語 中国語 韓国語 ロシア語 ドイツ語
元号・年号era name / Japanese era name / nengō年號연호、넨고девиз правления (統治標語)Äraname / Nengō
公年号official era name公年號공식 연호официальный девиз правленияoffizielles Nengō
私年号unofficial era name / personal era name / private nengō / shinengō私年號시넨고/개인 연호、または 사연호частный девиз правленияprivate Nengō
異年号inengō (音写)異年號이넨고 (音写) особые, необычные нэнго (特殊・異例の年号)
偽年号ginengō / false nengō偽年號기넨고 (音写) поддельные, ложные нэнго (偽造・虚偽の年号)
逸年号itsunengō逸年號이쓰넨고 (音写)неофициальный девиз правления (ицунэнго)
九州年号Kyūshū nengō九州年號규슈 넨고(音写)Kyūshū-Nengō
古代年号古代年號고대 사연호древние неофициальные девизыarchäologische Ärabezeichnungen (考古学的年代名称)

[273] 全体的には、非日本語記事の説明は四系統に分かれます。

  • [274] 英語学術系: 皇権による時間支配への地域的抵抗
  • [275] 英語・韓国語百科系: 古文書・金石文に残る非公式紀年
  • [276] 中国語系: 個々の私年号と実物史料を列挙
  • [277] 一般記事・AI記事: 戦乱・飢饉・宗教的救済願望から生まれた「民衆の時間」

[278] ただし、多くは日本語版Wikipediaや久保常晴の研究を翻訳・再構成したものです。

[279] 中国語版Wikipedia 日本年號列表 >>265 : 各私年号について、

  • 公年号との対応
  • 確認年数
  • 文書・板碑・仏像・経筒などの典拠
  • 異表記

を表形式で整理しています。非日本語資料では最も網羅的です。ただし日本語研究、特に久保常晴の整理に大きく依存しています。日本語研究上の細かな概念差はあまり説明せず、一覧分類として使用しています。

[280] 英語版Wikipedia Japanese era name >>264 : 神社・寺院の古文書や金石文に現れる unofficial era names と説明し、四十以上が確認されるとします。法興・朱雀・延徳・弥勒・命禄・征露などを例示し、使用年代が不明確なことを重視しています。私年号を上位概念とし、異年号・偽年号をほぼ同義語として並べます。逸年号だけを七〇一年以前のものとして区別します。

[281] 中国語版Wikipedia 大和(私年號) >>266 : 私年號(逸年號、偽年號)と逸年号・偽年号を私年号の括弧内類語として扱い、区別を平板化しています。

[282] 韓国語版Wikipedia 일본의 연호 >>267 : 私年号を「個人年号」と直訳し、神社・寺院の古文書や碑文に現れる非公式年号と説明します。四十以上が確認され、年代範囲が不明確だとし、法興・朱雀・延徳・弥勒・命禄・征露を例示しています。内容は英語版とほぼ同じで、独立した韓国研究というより翻訳的記事です。

[283] 今日のAI Wiki 사연호 >>268 : 日本の私年号を時代別に整理し、

  • 南北朝期=政治的対立
  • 戦国期=弥勒信仰・福神信仰、飢饉や災害からの救済願望
  • 近世=キリシタンの抵抗
  • 近代=自由民権・戦勝記念

と説明しています。私年号を日本語音写せず、漢字語の韓国音「サヨノ」に置き換えます。かなり詳しい一方、AI生成サイトで出典がほぼありません。

[284] ロシア語版Wikipedia 日本の元号による紀年 >>269 : 私年号を「частные девизы правления=私的な統治標語」と訳し、中世の地方領主・神社・仏教寺院が使用したと説明します。異年号は「特殊・異例」、偽年号は「偽造・虚偽」と価値判断も訳出します。総数を約九十とする点が英語・韓国語版の「四十以上」と異なります。これは古代年号や異年号を広く含める定義の違いと考えられます。ロシア語の日本学文献、コンツェヴィチの事典を典拠にしています。

[285] ドイツ語版Wikipedia >>270 : private Nengō / inoffizielle Bezeichnungen einzelner Perioden 「私的年号」と「個々の時期の非公式名称」を併記します。後世史料で疑わしいもの、抗議運動が広めたものという説明が加わります。

定義の色々

[28] に出版された地域史料集は、

私年号とは、天皇が定めた年号 (昭和までの公年号) と平成を除く年 号以外のものを、仮に私年号とする。

... と述べています。その直後で日本私年号の研究を引用しているにもかかわらず、 独自の「仮」の定義を採用しています。 >>27

[29] ここでは昭和までと平成を区別し、昭和までは公年号であるとし、 平成公年号であるのか否か曖昧な書き方としています。これは、 昭和までが詔勅の形で制定されていたのに対し、 平成政令での制定に過ぎないことを、 平成は「天皇が定めた」とは言えないという筆者 (前川清一) の考えがあると推察されます。

[30] 政令天皇署名して公布するものですから、「天皇が定めた」 性をわざわざ否定することに分類上の意義は皆無なのですが、 元号法制定以後こうした区別を好む人はちらほら見かけられます。 天皇の関与する制度の存在を否定したい左寄りの思想の人と、 天皇の関与の余地が小さい現行制度を非難したい右寄りの思想の人と、 どちらもあるようですが、この筆者はどういう意図なのでしょうね。
[31] もし公年号を法制上の違いで細分化するなら、 大化から朱鳥大宝から慶長元和から慶応明治大正昭和昭和から令和 (昭和は重出)、 くらいには少なくても分割する必要があると思われ、 >>28 の分割は雑すぎて分類としての有用性に疑問があります。 日本の元号法制

[32] ただし、この定義の直後で、元号名公年号で存在するはずがないから、 私年号ではないかと疑った、という旨の記述が出てきます。 更に読み進めると公年号の誤刻の疑いを検討し、それを否定し私年号と結論付けています。 >>27 >>28 の定義によれば公年号でないなら直ちに私年号となるはずなのに、 実際には公年号でも私年号でもない選択肢があるようです。

分類の色々

[217] 安定した政権の元号であれば制定の記録が残されていることが多く、 正しい表記も明らかです。 しかしそれ以外にも、

... などが存在しています。 こうしたものの総称が異年号であり、 その中でも特に (公年号のバリエーションや非実用ではなく) 私的に実用されたとみられるものが私年号とされることが多いです。

[224] 異年号

[225] >>224 の各分類は互いに排他的ではありません。また、便宜上、 元号すなわち一種の紀年法たる要件を満たさぬものも含まれます。

日本私年号の研究の分類

[137] 昭和39年の久保常晴の論文は、

相当量の私年号が古代年号として今にその記録が残されている。

と書いており >>136 #page=1、 この段階ではまだ昭和42年の異年号の分類体系が未成立だったことがわかります。

[138] また、この論文では、 「公年号とは見られない私年号をも含む、以上の異年号」 に関して 「異年号と私年号との判定>>136 #page=10 を行っています。「異年号」を総称として使いつつも、 私年号でないものを狭義異年号とみなしているように見受けられます。 この「異年号」「私年号」の用語法は未定義のまま使われており、 それまでの研究史における曖昧なニュアンス差をそのまま素朴に引き継いだものと推測されます。

[139] 更に、次のようにも述べています。 >>136 #page=20 #page=21


[154] 昭和42年の 日本私年号の研究 は、まず冒頭で対象となる元号群が江戸時代以来の研究者によってどう呼ばれてきたかを概観し、 それを再整理した新たな分類を提示しています。 >>156

[173] 日本私年号の研究の分類法は次の通りです。 >>156

[180] この体系のそれぞれの性質 (の久保常晴の理解) は、それぞれの項を参照。 この名称を選択した理由は次の通りです。 >>156

  • [181] それまでの用語法の検討
    • [182] 時代により人により様々に呼ばれた
  • [183] 性格の異なる年号を一括することを避け、古代年号と中世以後の私年号を区別する
    • [184] これは近年の慣例に従っていない
  • [185] 逸年号
  • [191] 異年号
    • [192] 公年号と異なる一切の年号を総括する名称に相応しい
    • [194] 第一類から第三類に加えて第四類、第五類も含み、これらすべての非公年号を含む名称と規定できる
  • [195] 偽年号
    • [196] 公年号に対して「いつわりの年号」
    • [197] 第一類から第三類の総括に相応しく、考え方によっては第五類をも含められる
    • [198] 第四類は、公年号を偽る意図がなく、この概念で律せない、すべての総括にも使えない
  • [199] 古代年号, 往古年号
    • [201] 「古代」「往古」の一般的概念からすれば、第一類に相応しい
    • [200] 総括には相応しくない
  • [203] 私年号
    • [204] 公年号に対する名称
    • [205] 広くは第一類から第五類のすべての非公年号を含み得る
    • [206] しかし、より本質的には、公年号を拒否し私に年号を建て、かつ使用するという、 公年号否定の思想が内包されているように思う
      • [207] 第四類、第五類はもちろん、第一類も律し得ない
      • [208] わずかに第三類が含まれ得るが、
      • [209] 本質的には第二類の名称として最も適切

[210] 仮作年号については、 烏鵲魚鳥「など」を挙げるだけであり >>156、 それ以上は本書では触れられていません。

[211] 更に、学界の一部で私年号または私年号かとされる私年号的諸資料や、 中国文献に見える年号私年号と既にまたは将来誤られる可能性ある数種の年号を、 私年号と認められない理由を明らかにする >>156 としています。これらは公年号ではありませんが、第一類から第五類の枠外の扱いとなっています。


[212] 日本私年号の研究学界内外に大きな影響を与えましたが、 日本私年号の研究が提起した新しい分類法は、 昭和時代後期から平成時代初期の一部の私年号研究で踏襲されたのを除くと、 広く採用されるには至りませんでした。

[213] 私年号という用語自体は日本私年号の研究の功績もあってより普及したものの、 その問題提起した多様で曖昧な概念定義の混乱という問題は改善されないまま令和時代に至っています。 これは、当分類法の優劣が議論された結果として受け入れられなかったのではなく、 単に惰性的に従来の用語法が使われ続けているに過ぎません。 日本私年号の研究 ほどの名声をもってしても、社会的に何となく広まっている用語と概念を覆すのは容易ではないのです。

[214] 日本私年号の研究 は、先行研究、特に江戸時代の分類が、その呼称と学説上の評価が直結していること (例えば逸年号 = 正史からの欠落、偽年号 = 偽り、など) を指摘し、これを踏襲した分類定義を行っています。その一方で、 「同音異字」「一字異音」 のような一見すると構造的な分類も設けています。ただし、それらも 「作為された」のような学説的評価が定義に内在されています。

[215] 従って、先行研究と同様の限界、すなわち分類法の根拠となる学説自体が論議の対象となるとき、 従来の用語と分類も日本私年号の研究の分類法が通用しなくなるという問題を抱えています。 例えば、ある元号が「公年号の使用に反感を持」って作られ使われたものか、 それとも改元デマの一時的な流言に過ぎないのかが論争となるとき、 その元号私年号と言い得るかどうかも同時に問われることになります。

[216] 一般に私年号とされるものの大部分は、資料不足のためその性格が不明瞭で、 久保常晴がいったん推定的な結論を得たものであっても、 その後の研究で覆された事例がいくつか見られます。 資料不足が偶発的事例ではなく本質的制約である以上、 上位の総称的な分類の定義に、 まさに議論の対象となり得る判断基準を組み込んでしまうのは、 実用的ではないのかもしれません。

その他の分類

[10] 昭和時代日本国岩手県の歴史研究者司東真雄は、 岩手県金石文異年号を次のように分類しています。 (実例を示すだけで、説明はありません。) >>11, >>12

[18] 音仮借, 行仮借は、漢字通用に関する概念のようです。

[19] 関連: 承得

大陸の正統年号と非正統年号との関係

大陸の正統年号と非正統年号

私年号たるものとそうでないもの

[7] 関連: 文徳, 自由自治, 征露, スローガン的元号

同音異字年号

[253] 近代まではまだ同音異字年号という明確な概念はなかったものの、 それに相当するものと研究者に認識された異年号はいくつかあります。

[254] 近代には、命禄弥勒の同音異字の別名のように考えられました。 現在では否定されています。


[55] 昭和42年の 日本私年号の研究 は、 異年号の一種として同音異字年号なる分類を設けています。

[56] 次のように述べています。 >>57

[127] 要するに、公年号からその軽視の風潮の現れである仮名書年号が生じ、 更に公年号を無視する態度から意味を改変する同音異字年号に発展し、 ついには公年号にも紐づかない私年号が生じるに至った、 という全体の流れの中に位置付けています。 公年号軽視の風潮 そして、 抽象的な公年号に対して同音異字年号は具体的・直接的であって、 庶民の思いをより直接的に表現するものだと理解しているのです。

[134] ここでは、 公年号を改作したもの、つまり公年号と同じ元年字音を持ち、 文字だけが異なるものが同音異字年号に分類され、 元年の異なるものは私年号と分類されることになります。

[135] なお、仮名書年号同音異字年号が初出以後も使われ続け、 私年号が発生するようになっても並存し続けることについては、 特に何も言及がありません。


[20] 板碑研究者石村喜英の論文は、 板碑私年号の解説ですが、 日本私年号の研究板碑系の異年号の研究を踏まえつつ、 実例を提示しています。 >>251

[21] 当論文では、

  • [22] 公年号を誤って記したか、
  • [23] 異字にそれほど違和感・正誤感をもたなかったための表記

... と思われるものを、私年号から「ここでは」除外して同音異字年号としています。 >>251

[25] 加えて、永ワのように漢字片仮名が混じったものも、 「同音異字表記」 としています。 >>251 (同音異字年号に分類されるかは不明瞭ながら、私年号からは除外されています。)

一字異音年号

[35] 昭和42年の 日本私年号の研究 は、 異年号のうち、 私年号ではない分類に属するものを 私年号発生に至る前段階 で説明しています。 >>33

[36] そのうち、 一字異音の年号 には、次のような内容があります。 >>34

[51] すなわち、公年号軽視の風潮により仮名書年号同音異字年号私年号に発展したとする久保常晴の説において、 一字異音年号はうまく説明が付かない不明な元号群という位置付けになっています。

[52] また、形式的には同音異字年号に含まれるはずのものを中心に、 誤記の可能性が強いと認定されたものも、本書の構成上は一括して扱われています。

[229] それとは別に、結論において白鳳朱雀一字異音年号とされています。 >>71 p.四七四 公年号軽視の風潮

[53] 要するに日本私年号の研究の分類モデルでうまく説明がつかなかった元号群がここに属しています。

[230] 永祖も参照。

[231] なお、勝山日記と表現しており、 この本のくせと年号の知識からと読み得るのであり、 編者自身誤っている場合も相当多く、 同音異字・一字異音の中のある部分はかかる場合のものもあろう、 としています。 >>71 p.四九二

私年号的

[193] 日本私年号の研究私年号的諸資料で挙げられたもの (私年号と認定していないもの)

[241] これら (少なくても立項されているもの) の 「年号ないし年号的諸資料」 は、考察を覆す新資料が発見されない限り、私年号として認められない、 と判断されています。いくつかには明示的に年号から削除するべき、 とあり、それ以外も同様の考えと推察されます。 >>71 p.五〇〇

[242] 単独立項するか否かの基準が見えにくいのですが、過去論文を遡ると想像が付きます。 昭和39年論文時点では私年号的諸資料なる区分はなく、すべて同列に扱われ、 永然の中に日本私年号の研究とほぼ同内容の解説があり、 諸例が提示されていました。永然が立項されているのは、先行する辞典類へ私年号としての掲載があったためとみられます。 つまり、従来私年号扱いを受けてきたものを並べたうちで、 私年号から「削除」されるべきと判断された永然が、その解説ごと私年号的諸資料に移動されたのです。 本文中の諸例はもともと私年号扱いされておらず、 わざわざ独立させるまでもないと判断されたのでしょう。

[70] 「私年号的」 という分析 大同


[286] 古代年号的諸資料 : 正法

[287] 同書の分類では異年号のうち同時代的に使われたものが私年号、 遡って作られ「古代年号」等の呼称でまとめられてきたものが古代年号と分けられますが、 正法は形式的には後者に当てはまるものの、歴史的に古代年号の扱いを受けていなかったことから、 「古代年号的」という謎分類に入れられたようです。

[289] 歴史的経緯を踏まえると古代年号大宝頃より前を指す分類とするべきでしょうから、 奈良時代を表すという点でも古代年号に分類するのは不適切でしょう。 古代年号やその他を含む「遡及的私年号」の分類を新設するのが妥当でしょうか。

関連

私年号研究史

メモ

[91] 近年の新興宗教の中には、国を越えて信者が広がっており、 かつ独自に紀年法を用いるものも見られます。 そうした紀年法は、国をまたがって使われる元号と言える場合もあるかもしれません。 統一教会暦