標準時の一般的使用に関する件

標準時の一般的使用に関する件

本文

[1] 1905年7月14日・総税務司ロバート・ハート訓令 第1263号

標準時の一般的使用に関する件

来る8月1日を以って帝国内全電信局に於いて標準時を使用するに決定せり。 然して同日を以って右標準時間は従来用いられざりし全海関及び郵便局にも採用せらるべし

本件に関する巡工司との往復分書写を準則として同封す。

[2] 附属 第1号

総税務司宛 第666号

本職は香港及び澳門政務庁宛に税務司経由にて非公式に提議したる結果、 右各植民地が先月30日を以って八時間時差 (訳者註「グリンニツチ」標準時に8時間を加えたるものを標準時とするの意) を採用し同時に広東、江門、三水及び梧州も亦本職の要求に応じて右に変更したる旨通報するの光栄を有す

最近仏蘭西提督は本職と広州湾及び東京に於いては7時間時差の採用方を望ましき点に付論究し其の結果之が提案をなし決定を見たる上は非公式に本職に知らしむべき旨語れり

之等各地に於いて右採用するものと予期し本職は目下支那に於いては両時差の境界は何処とすべきやに付考慮中なる処之に先立ちて本件を処理し即ち必要あるに於いては或る意味に於いて利害関係を有する者例えば郵便、電信及び鉄道当局と協議し貴職宛境界につき提案するの権限を付与せられむことを要請するの光栄を有す

厳密に謂えば時差7時間と時差8時間との境界は子午線112度5分なり、尤も左に述ぶる数個の理由あるに依り右の線に余りに拘泥することは好ましからず。即ち

河川交通
汽船航行即ち或種の汽船の遡航する河の上流例えば梧州及び宜昌に於いて時間を変更することは便利なり
鉄道交通
南北鉄道線に於いては成るべく時間の変更は避くるべきなり 東西鉄道線の場合には主要なる駅に於いて変更すべし
電信線
時間の変更はなるべく主要局に於いて行うべし
郵便
通信線に付ては或る程度迄本来の境界線に依ることを得べし

本職は本件の処理に付き何等困難を予想せず又若し貴職が処理に必要なる権限を与えらるるに於いては本職は時差8時間制の場合と同様に平穏に且つ目立たぬ様に変更をなし得る自信を有す

結論として本職は敢えて本運動には重大性あることを確信する旨申述ふる次第なり。 蓋し右時差に刺戟を与えなば標準時の波動は勢い大陸全般に伝播すべし。 然して西洋よりは殆ど不可能に属せし事も東洋よりすれば実効を挙げ得べし

広東 上海

巡工司 ダブリユ・フエルド・タイラー

北京 総税務司 ロバート・ハート殿

[3] 附属 第2号

巡工司宛第119号、海軍部発第164号

香港、澳門、広東及び西江各地に於ける標準時制採用方報告せられ且つ時差境界に関し措置をとるべき権限を要請さられたる貴信第666号受領の旨通報し且つ貴職御申越通措置せらるべきことを許可するを承認する様総税務司より訓令せられたり

総務局長 ジエー・エフ・オイーゼン

上海巡工司宛

[4] 附属 第3号

総税務司宛第693号

標準時に関する措置を報告し尚且つ其の後の措置に付き権限付与方要請したる去る11月22日付け拙信第666号並右につき許可ありたる12月20日付け第119号貴答に関連し本職は茲に時差9、8、7、6及び5時間の各地帯間の境界案を示し拙信第666号の条件に従い当所に於いて編纂せる謄写図を別便を以って送付し之が決裁方要請するの光栄を有す

唯一つ注意を要するは時差7時間と8時間との境界線なり。 右は考慮の結果其の正確なる位置たる子午線112度5分に依らざるものなり

西江及び揚子江に於ける或る種汽船航行の上流に関しては最考慮したる処其の結果梧州及び宜昌は時差8時間の地帯中に位含せしむること望し

電信及び郵便線に関し考慮したる結果、枝線を包含せしむる為或程度子午線より偏倚すること望し

鉄道に関し考慮したるも現在通にて別に変更の要なし

電信線及び郵便線に因る偏倚に関しては右は単に一時的のものなりと考うべく偏倚の原因たる枝線が延張せらるる際は標準時の境界は之をして其の通常位置と一層よく一致せしむる様再整理すべきなり

貴信第119号に依る許可に従い本職は標準時制につき行政庁の指示を受くる目的を以って去る1月に支那帝国電政監督 (The Chief Superintendent of the Imperial Chinese Telegraph Administration) ドレーシング氏に面会せり

其の結果本職は3月3日付け次の如き文書を受領せり

「先に打合せる問題に関し本職は電政大臣閣下が支那帝国の電信に対し曩に提案せる標準時制に付き許可せられたる旨を通告すること欣快の至なり、 大臣は本職に対し該新制度の詳細及び之が実施期日に関し貴職と商議すべき権限を付与せられたり依て本職は貴職が該計画を実施せられむとする期日其の他につき御都合次第通報あらむことを切望す」

茲に送付せる地図上の境界線はドレーシング氏の承認せるものにして電政当局が追て必要なる措置を採ることを心配し居り之が完全を期する為には相当時間を要すべきを以って新時間採用の期日を知ること肝要なり

従ってドレーシング氏は一定の日を指定せむことを本職に催促し来れり。 事情右の通りなるを以って本職は敢えて貴職に図ることなく8月1日を指定せるなり

当局の措置は時間を上海より日々全局に通報する計画を包含す。 本職は茲に貴職が標準時制の拡張を開始する件に関する通達を残余の開港場海関及び全郵便局宛に発せられむことを懇請す。 斯る通達に対し必要なる資料を供せむが為に該問題に対する覚書を同封せり

上海に於いて

巡工司 ダブリエ・フエルド・タイラー

北京 総税務司宛

[5] 副附属

覚書

来る8月1日を以って支那帝国電政局は帝国内の全局―時差9時間の琿春より時差5時間の葉尓羌に至る間―に於いて時差制を採用す。 本目的の為に時間通報の正式の組織を整備せり。 同時に未だ標準時制を採用し居らざる開港及び全支那帝国郵便局に於いても右開始せられむことを希望す

海関に関しては総税務司通達第51号に於ける本件に関する諸注意に留意すべし国内郵便局に関しては郵政供事 (Postal Clerks or Agents) は最寄りの電信局に付き時間を承知すべし時差7時間との間の境界は郵政図に記載して巡工司より関係各海関に供給すべし。 右境界に関しては考慮の結果其の正規の位置たる子午線112度5分より幾分偏倚すること必要となれり

梧州及び宜昌は或る種の汽船航行の上流に位置せるが故に右両地は子午線112度5分の西方に位せるにも拘らず之を時差8時間の地帯に包含せしむるを可なりと思考せらる

子午線112度5分を通過せる短距離の電信及び郵便枝線存在し余り甚だしく偏倚せずして行われ得べきものは何れも之を時差8時間の地帯中に包含せしむること望まし。 将来斯る枝線が延長せらるる際は右標準時に境界を其の正規位置に接近せしむる様再整理すること好都合なるべし

次表は当該海関、各海関の正確なる地方時間を示す時計に付標準時 (即ちグリニッジ標準時よりも場合に応じ正8時間、7時間又は6時間進みたる時間) に合致せしむる為進め或いは遅らすべき時間の量を示すものなり右は当該地の経度を完全に知り難きを以って唯近似的のものに過ぎず

  • 8時間帯
    • 梧州 28分0秒 前進(+)
    • 長沙 28分50秒 〃 〃
    • 沙市 30分50秒 〃 〃
    • 宜昌 35分0秒 〃 〃
  • 7時間帯
    • 重慶 6分0秒 後退(-)
    • 海口 21分4秒 〃 〃
    • 北海 16分28秒 〃 〃
    • 竜州庁 7分0秒 〃 〃
    • 蒙自 6分30秒 前進(+)
    • 思茅 15分50秒 〃 〃
    • 騰赴庁 27分0秒 〃 〃
  • 6時間帯
    • 亜東 4分0秒 前進(+)

太陽の観測に依り時間を知り得たる上は標準時は前掲記号に従い右地方時に誤差を適用して知ることを得

船のクロノメーターより標準時を知るにはグリニッジ平均時の誤差を適用し之に時差を加うべし (例えば海口、北海に対しては7時間0分0秒を加算するが如し)

内国港に於いては電信局より各自時間を知り得べし

電信時を引合す為に例えば天文学上の観測に依る如き手段が存し標準時と可なりの相違がある場合には電信局を訂正せしめず巡工司に通告することを要す右は電政大臣の命令に基づくものなり

数秒間の相違は仮定的経度の誤差に基づくものなること留意すべし

上海巡工司庁

巡工司 ダブリユ・フエルド・タイラー

出典

注記

[7] 本記事の本文は、出典 >>6 をテキスト化したものですが、 原文が既に翻訳であることから、次の表記は適宜改めています。

[8] その他本文内容を変更しない整形上の変更が加わっています。