いつか XHTML2 の時代が来ると思っていた頃もありました。ネタを漁っていたら大杉で書ききれませんでした。わかりやすそうなのを集めてみました。
HTML の将来を議論する W3C Workshop で従来の HTML を捨て、 XML 構文に移行することが決定されました。
これがすべてのはじまりでした。
W3C workshop - Shaping the Future of HTML http://www.w3.org/MarkUp/future/
XHTML m12n 仕様書において usemap 属性の属性値の定義が誤っている問題について当時の HTML WG (現 XHTML2 WG) は度々指摘を受けてきましたが、対応を怠り、2008年12月になってようやく XHTML 1.2 Editor's Draft に限って修正されました。
この他にも2000年代中頃には度々、コミュニティーの意見に対する当時の HTML WG の対応が批判される事例がありました。
Hixie's Natural Log: Fixing the "usemap" attribute http://ln.hixie.ch/?start=1172653243&count=1
XHTML2 Working Group Teleconference -- 24 Oct 2008 http://www.w3.org/2008/10/24-xhtml-minutes.html#item08
text/html として送信された XHTML 文書を (XML としてではなく) HTML として解釈するべきとの見解を示しました。
HTML から XHTML への緩やかな移行の可能性がこれによって絶たれることとなりました。
Re: Sniffing XHTML sent as text/html http://lists.w3.org/Archives/Public/www-html/2000Sep/0024.html
XHTML2 が XHTML1 とは互換性のないマーク付け言語となることが決定されました。
当時まったく普及していなかった XHTML1 とすら互換性のない新言語に移行するとは、なかなかの英断です。
Introduction http://www.w3.org/TR/2002/WD-xhtml2-20020805/introduction.html
While the ancestry of XHTML 2 comes from HTML 4, XHTML 1.0, and XHTML 1.1, it is <em>not</em> intended to be backward compatible with its earlier versions.
XHTML2 の名前空間に XHTML1 とは異なる URL を用いることが決定されました。
ハイパーリンクの仕組みとして XLink を採用しないことが決定されました。 (2001年頃には従来のハイパーリンク属性に代わって XLink が採用されると噂されていましたが、2002年の最初の公開 Working Draft では採用されておらず、代わりに HLink 仕様案が発表されました。)
XLink では HTML の要求を満たせないとの主張の是非はともかく、これによって既存の XML ハイパーテキスト・ブラウザーとの互換性が絶たれました。 (皮肉なことにこの頃行われた XHTML2 の実験実装は XHTML2 のリンクを XLink に内部的に変換するというものでした。)
The XHTML Family - slide "XHTML 2.0 (2)" http://www.w3.org/2001/09/21-orf/xhtml-family/slide23-0.html
一部の XHTML 1.0 文書を除き、 XHTML1 文書には text/html を用いるべきではないとの見解が発表されました。
当時の early adapter による XHTML 1.1 や XHTML Basic の採用を躊躇させ、結果的に XHTML への移行が遅れました。
XHTML Media Types http://www.w3.org/TR/2002/NOTE-xhtml-media-types-20020801/
すべての要素に src 属性が追加され、画像等のオブジェクトの埋め込みに使えるようになりました。それまでの Working Draft で埋め込みに使われていた object 要素は不要になりましたが、なぜか削除されずに存続しました。
XHTML Attribute Collections http://www.w3.org/TR/2002/WD-xhtml2-20021211/mod-attribute-collections.html#col_Embedding
Introduction http://www.w3.org/TR/2004/WD-xhtml2-20040722/introduction.html#s_intro_differences
すべての要素に src 属性が存在するにも関わらず、画像の埋め込みのために img 要素が「XHTML2 への移行を容易にするため」と称して“復活”しました。
この他にも h 要素と h1~h6 要素が共存するなど、 XHTML1 と互換性がないにも関わらず互換性を謳った機能が含まれるという矛盾を XHTML2 は内包し続けました。
XHTML 2.0 - XHTML Image Module http://www.w3.org/TR/2005/WD-xhtml2-20050527/mod-image.html#sec_19.1.
quote 要素の名前が q 要素に変更されました。 (旧来の HTML の q 要素とは互換性のない quote 要素が XHTML2 で導入されましたが、非互換なまま名前だけもとの q に戻されました。)
XHTML 2.0 - XHTML Text Module http://www.w3.org/TR/2006/WD-xhtml2-20060726/mod-text.html#sec_9.8.
XHTML 2.0 の一部モジュールを XHTML1 にバックポートする方針で同意がなされました。
XHTML1 から XHTML2 への移行が容易になるといえば聞こえはいいですが、現実には XHTML2 の魅力が失われていくばかりでした。
RDF-in-XHTML TF -- 6 Mar 2006 http://www.w3.org/2006/03/06-htmltf-minutes#item02
XHTML2 の名前空間を XHTML1 と同じものに変更することが決まりました。
これによって XHTML1 と非互換な XHTML2 が Web ブラウザーで実装される見込みは完全に消失しました。
Re: [xhtml-role] Extensibility of XHTML 1 and XHTML 1.1 (PR#9627) http://lists.w3.org/Archives/Public/www-html-editor/2006JulSep/0137
HTML Working Group XHTML 2 Issue Tracking System - Conformance/7808 http://htmlwg.mn.aptest.com/cgi-bin/xhtml2-issues/Conformance?id=7808;user=guest;statetype=-1;upostype=-1;restype=-1
HTML Working Group XHTML 2 Issue Tracking System - Conformance/7818 http://htmlwg.mn.aptest.com/cgi-bin/xhtml2-issues/Conformance?id=7818;user=guest;statetype=-1;upostype=-1;restype=-1
xhtml-modularization/Attic/conformance-xhtml2.mhtml - diff - 1.1.2.55 http://htmlwg.mn.aptest.com/viewcvs/viewcvs.cgi/xhtml-modularization/Attic/conformance-xhtml2.mhtml.diff?r1=1.1.2.54&r2=1.1.2.55
2006年9月の XHTML 1.1 第2版の Editor's Draft で、 text/html を使うべきだとの記述が追加されました。 XHTML Basic 1.1 Editor's Draft にも同様の記述が追加されました。
ところが、2007年4月になって、その記述は編集上の誤りだったとして撤回されました。
編集上の誤りだいうのが事実だとして、これほどの重大な間違いが半年間修正されずに放置されていたことになり、もはや呆れる以外にありません。
xhtml11/conformance.mhtml - diff - 1.25 http://htmlwg.mn.aptest.com/viewcvs/viewcvs.cgi/xhtml11/conformance.mhtml.diff?r1=1.24&r2=1.25
xhtml-basic/Overview.mhtml - diff - 1.21.2.39 http://htmlwg.mn.aptest.com/viewcvs/viewcvs.cgi/xhtml-basic/Overview.mhtml.diff?r1=1.21.2.38&r2=1.21.2.39&only_with_tag=r1_1
xhtml-basic/Overview.mhtml - diff - 1.21.2.61 http://htmlwg.mn.aptest.com/viewcvs/viewcvs.cgi/xhtml-basic/Overview.mhtml.diff?r1=1.21.2.60&r2=1.21.2.61&sortby=date&only_with_tag=r1_1
Re: [XHTML1.1] Error in Conformance Definition document? http://lists.w3.org/Archives/Public/www-html/2007Apr/0015.html
Apple の WebKit 開発者が XHTML2 は Web に不相応だとの見解をプロジェクトのブログのコメント欄で示しました。
他の Web ブラウザーの開発者も XHTML2 を実装する意思がないことをほのめかす発言を Web や IRC などでしています。
Surfin’ Safari - Blog Archive ? HTML Standards Process Returning from the Grave http://webkit.org/blog/89/html-standards-process-returning-from-the-grave/#comment-17195
XHTML の XML Schema の制約が実際の規定より緩いとの問題が提起されましたが、当時の HTML WG は、何が正しい制約か判断できず、妥当性を誤って判断し兼ねないとして応じませんでした。指摘者が具体的な修正案まで提案したにも関わらず無視しました。
既に驚くほどのことでもありませんでしたが、当時の HTML WG は自身が規定する仕様に対する文書の適合性に関して判断できないと表明したことになります。
HTML Working Group Voyager Issue Tracking System - Modularization-Schemas/9715 http://htmlwg.mn.aptest.com/cgi-bin/voyager-issues/Modularization-Schemas?id=9715
Request for comments on the definition of some data types in XHTML Modularisation http://lists.w3.org/Archives/Public/www-html-editor/2007JanMar/0030
妥当性検証器 (validator) は text/html として送信された XHTML 文書を (HTML としてではなく) XML として解釈するべきとの見解を示しました。
2000年の決定と矛盾する上、混乱の元であった Web ブラウザーと妥当性検証器の解釈の差異を固定化してしまいました。
Re: XHTML Family Document Types and the validator http://lists.w3.org/Archives/Public/www-validator/2007Apr/0175.html
W3C の妥当性検証器において、 XHTML2 WG の要望により名前空間宣言属性 (xmlns:* 属性) に関する DTD 妥当性検証が行われなくなりました。
仕様の改訂など適切な手続きを経ずに一実装の変更により「妥当性」の定義が歪められました。
xmlns attributes... http://lists.w3.org/Archives/Public/www-validator/2007Apr/0169.html
Bug 800 -- xmlns attribute for XML namespace not allowed http://www.w3.org/Bugs/Public/show_bug.cgi?id=800
XHTML2 開発の主要人物が XHTML2 は XHTML 1.1 とそれほど違わないと発言しました。
語るに落ちました。
Re: input on name for XML serialization of HTML 5? http://lists.w3.org/Archives/Public/public-xhtml2/2007Jun/0014.html
XHTML Basic 1.1 が Candidate Recommendation から先に進むにあたって2つの Web ブラウザーの Implementation Report が提出されました。
報告の1つは、テストに誤りがあった (整形式でなかった) ために「The testing was done with the modified content locally.」というものでした。
もう1つは、XHTML Basic 1.1 は実装していないが同等のテストを作って実行した、というものでした。同等のテストは実は XForms でした。
この実装報告に何の意味があるのかもはや理解不能ですし、それが問題視されることなく勧告にまで進んでしまう W3C の標準化手続きにも呆れるばかりです。
XHTML Basic 1.1 Implementation Report http://www.w3.org/MarkUp/2008/xhtml-basic-11-implementation.html
XHTML 1.0 以外の XHTML1 文書も場合によっては text/html として送信することを認めるとの方針転換がなされました。
事実上、 application/xhtml+xml への移行の失敗を認めたことになりますが、まだ諦めてはいないようです。
XHTML Media Types - Second Edition http://www.w3.org/TR/2009/NOTE-xhtml-media-types-20090116/
XHTML 1.0、XHTML 1.1 など4仕様の Proposed Edited Recommendation が取り消されました。議論が尽くされておらず手続き上問題があったとされています。
旧 HTML WG、現 XHTML2 WG の仕様策定の手続き上の問題については以前から批判がありましたが、仕様案の取り消しまでに至ったのはこれがはじめてでした。
Archive of W3C News in 2009 http://www.w3.org/News/2009#item79
完全に余談ではありますが、旧 HTML WG は2002年当時 XLink を XHTML2 で採用しなかったことが問題視されたとき、 XLink は正当な手続きを踏んでいないと非難していました。なんとも不思議な因果です。
Re: TAG Comments on XHTML 2.0 and HLink http://lists.w3.org/Archives/Public/www-tag/2002Sep/0188.html
HTML Working Group Roadmap http://www.w3.org/TR/1999/NOTE-xhtml-roadmap-19991117/#schedule
Deliverable 1st Public Draft 2nd Draft Last Call Proposed Recommendation Recommendation or Note XHTML 2.0 January 2000 March 2000 April 2000 May 2000 July 2000
泣けてくる・・・。
XHTML 1.1 - Acknowledgements http://www.w3.org/TR/2001/REC-xhtml11-20010531/acknowledgements.html#a_acks
2001年の HTML WG には Microsoft、Netscape/AOL、Opera、Openwave と主要な Web ブラウザーの企業が参加していました。
RDFa in XHTML: Syntax and Processing http://www.w3.org/TR/2008/REC-rdfa-syntax-20081014/#a_acks
2008年の XHTML2 WG で有名な Web ブラウザーを作っているのは ACCESS だけです。もう本当に可哀想過ぎます・・・。